にはお帰りにならないと思っていましたのに、存じの外《ほか》にお早うござりました、それでは迚《とて》も御見物は出来ませんでございましたろう」
母「はい、私は少し思う事があって、急に国へ帰る事になりましたから、奉公人共への土産物も取っている暇もない位で」
五「アレサなに左様御心配がいるものでございましょう、お母《っか》さまは芝居でも御見物なすってお帰りになる事だろうから、中々一ト月や二タ月は故郷《こきょう》忘《ぼう》じ難《がた》しで、あっちこっちをお廻りなさるから、急にはお帰りになるまいと存じましたに」
母「さアお前に貰った旅用の残りだから、むやみに遣《つか》っては済まないが、どうか皆《みんな》に遣《や》っておくれよ」
と奉公人|銘々《めい/\》に包んで遣わしまして、其の外《ほか》着古しの小袖|半纒《はんてん》などを取分け。
五「そんなに遣らなくっても宜《よろ》しゅうございます」
と申すに、
母「ハテこれは私の少々心あっての事で、詰らん物だが着古しの半纒は、女中にも色々世話に成りますからやっておくれ、シテお國や源次郎さんは矢張奥の四畳半に居りますか」
五「誠にあれはお母様《かゝさま》に
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