いたして置きます」
 これから相助は龜藏と時藏の所へ往《ゆ》き此の事を話すと、面白半分にやッつけろと、手筈《てはず》の相談を取極《とりき》めました。さて飯島平左衞門はそんな事とは知らず、孝助を供につれ、御番からお帰りに成りました。
國「殿様今日は相川様の所へ孝助の結納でお出《い》でになりますそうですが、少しお居間の御用が有りますからお送り申したら、孝助は殿様よりお先へお帰し下さいまし、用が済み次第|直《すぐ》に又お迎いに遣《つか》わしましょう」
 という飯島は
「よし/\」
 と孝助を連れて相川の宅《うち》へ参りましたが相川は極《ごく》小さい宅で、
孝「お頼み申します/\」
相「ドーレ、これ善藏や玄関に取次が有るようだ、善藏居ないか、何処《どこ》へ行ったんだ」
婆「あなた、善藏はお使いにおやり遊ばしたではありませんか」
相「己《おれ》が忘れた、牛込の飯島様がお出《い》でに成ったのかも知れない、煙草盆へ火を入れてお茶の用意をして置きな、多分孝助殿も一緒に来たかも知れないから、お徳に其の事を云いな、これ/\お前よく支度をして置け、己が出迎いをしよう」
 と玄関まで出て参り、
相「これは殿様|大分《だいぶ》お早くどうぞ直《すぐ》にお上《あが》りを願います、へい誠に此の通り見苦しい所孝助殿も、御挨拶は後《あと》でします」
 相川はいそ/\と一人で喜び、コッツリと柱に頭を打付《ぶッつ》け、アイタヽ、兎に角|此方《こちら》へと座敷へ通し、
「さて残暑お熱い事でございます、又|昨日《さくじつ》は上《あが》りまして御無理を願ったところ、早速にお聞済《きゝず》み下され有がとう存じます」
飯「昨日はお草々《そう/\》を申しました、如何《いか》にもお急ぎなさいましたから御酒《ごしゅ》も上げませんで、大《おお》きにお草々申上げました」
相「あれから帰りまして娘に申し聞けまして、殿様がお承知の上孝助殿を聟《むこ》にとる事に極って、明日《あす》は殿様お立合の上で結納|取交《とりかわ》せになると云いますと、娘は落涙《らくるい》をして悦びました、と云うと浮気の様ですが、そうではない、お父様《とっさま》を大事に思うからとは云いながら、只今まで御苦労を掛けましたと申しますから、早く丈夫にならなければいけない孝助殿が来るからと申して、直《すぐ》に薬を三|服《ぶく》立付《たてつ》けて飲ませました、それからお粥《かゆ》を二膳半食べました、それから今日はナ娘がずっと気分が癒《なお》って、お父様こんなに見苦しい形《なり》でいては、孝助さまに愛想《あいそう》を尽かされるといけませんからというので、化粧をする、婆アもお鉄漿《はぐろ》を附けるやら大変です、私《わたくし》も最早《もはや》五十五歳ゆえ早く養子をして楽がしたいものですから、誠に耻入った次第でございますが、早速《さっそく》のお聞済《きゝず》み、誠に有難う存じます」
飯「あれから孝助に話しましたところ、当人も大層に悦び、私《わたくし》の様な不束者《ふつゝかもの》をそれ程までに思召《おぼしめ》し下さるとは冥加至極《みょうがしごく》と申してナ、大概《あらかた》当人も得心いたした様子でな」
相「いやもう、あの人は忠義だから否《いや》でも殿様の仰しゃる事なら唯《はい》と云って言う事を聞きます、あの位な忠義な人はない、旗下《はたもと》八万騎の多い中にも恐らくはあの位な者は一人もありますまい、娘がそれを見込みましたのだ、善藏はまだ帰らないか、これ婆ア」
婆「なんでございます」
相「殿様に御挨拶をしないか」
婆「御挨拶をしようと思っても、貴方《あなた》がせか/\している者だから御挨拶する間《ま》もありはしません、殿様、御機嫌|様《さま》よう入《いら》っしゃいました」
飯「これは婆《ばあ》やア、お徳様が長い間《あいだ》御病気の所、早速の御全快誠にお目でたい、お前も心配したろう」
婆「お蔭様《かげさま》で、私《わたくし》はお嬢様のお少《ちい》さい時分からお側にいて、お気性も知って居りますのに何《なん》とも仰しゃらず、漸《やっ》と此の間分ったので殿様に御苦労をかけました、誠に有がとうございます」
相「善藏はまだ帰らないか、長いなア、お菓子を持って来い、殿様御案内の通り手狭でございますから、何かちょっと尾頭附《おかしらつき》で一|献《こん》差上げたいが、まアお聞き下さい、此の通り手狭ですからお座敷を別にする事も出来ませんから、孝助殿も此処《こゝ》へ一緒にいたし、今日は無礼講《ぶれいこう》で御家来でなく、どうか御同席で御酒《ごしゅ》を上げたい、孝助は私《わたくし》が出迎えます」
飯「なに私《わたくし》が呼びましょう」
相「ナアニあれは私《わたくし》の大事な聟で、死水《しにみず》を取ってもらう大事な養子だから」
 と立上《たちあが》り、玄関まで出
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