に結い、着物は秋草色染《あきくさいろぞめ》の振袖《ふりそで》に、緋縮緬《ひぢりめん》の長襦袢《ながじゅばん》に繻子《しゅす》の帯をしどけなく締め、上方風《かみがたふう》の塗柄《ぬりえ》の団扇《うちわ》を持って、ぱたり/\と通る姿を、月影に透《すか》し見るに、何《ど》うも飯島の娘お露のようだから、新三郎は伸び上《あが》り、首を差し延べて向うを見ると、向うの女も立止まり、
女「まア不思議じゃアございませんか、萩原さま」
と云われて新三郎もそれと気が付き、
新「おや、お米さん、まアどうして」
米「誠に思いがけない、貴方様《あなたさま》はお亡くなり遊ばしたという事でしたに」
新「へえ、ナニあなたの方でお亡くなり遊ばしたと承わりましたが」
米「厭《いや》ですよ、縁起の悪い事ばかり仰しゃって、誰が左様な事を申しましたえ」
新「まアおはいりなさい、其処《そこ》の折戸《おりど》のところを明けて」
と云うから両人内へ這入《はい》れば、
新「誠に御無沙汰を致しました、先日山本志丈が来まして、あなた方御両人ともお亡くなりなすったと申しました」
米「おやまア彼奴《あいつ》が、私《わたくし》の方へ来ても貴方がお亡くなり遊ばしたといいましたが、私の考えでは、貴方様はお人がよいものだから旨く瞞《だま》したのです、お嬢様はお邸《やしき》に入らっしゃっても貴方の事|計《ばか》り思って入らっしゃるものだから、つい口に出て迂濶《うっか》りと、貴方の事を仰しゃるのが、ちら/\と御親父様《ごしんぷさま》のお耳にもはいり、又内にはお國という悪い妾がいるものですから邪魔を入れて、志丈に死んだと云わせ、互《たがい》に諦めさせようと、國の畜生がした事に違いはありませんよ、貴方がお亡くなり遊ばしたという事をお聞き遊ばして、お嬢様はおいとしいこと、剃髪《ていはつ》して尼に成ってしまうと仰しゃいますゆえ、そんな事を成すっては大変ですから、心でさえ尼に成った気で入らっしゃれば宜《よろ》しいと申上げて置きましたが、それでは志丈にそんな事をいわせ、互に諦めさせて置いて、お嬢さまに婿《むこ》を取れと御親父さまから仰しゃるのを、お嬢様は、婿は取りませんからどうかお宅《うち》には夫婦養子をしてくださいまし、そして他《ほか》へ縁付くのも否《いや》だと強情をお張り遊ばしたものですから、お宅が大層に揉めて、親御《おやご》さまがそんなら
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