内儀《かみ》さま、大きに無沙汰を致しやした、ちょっくり来るのだアけど今ア荷い積んで幸手《さって》まで急いでゆくだから、寄っている訳にはいきましねえが、此間《こないだ》は小遣《こづかい》を下さって有難うごぜえます」
みね「まアいゝじゃアないか、お前は宅《うち》の親類じゃないか、一寸《ちょっと》お寄りよ、一ぱい上げたいから」
久「そうですかえ、それじゃア御免なせい」
 と馬を店の片端に結《ゆわ》い付け、裏口から奥へ通り、
久「己《おら》ア此家《こっち》の旦那の身寄りだというので、皆《みんな》に大きに可愛《かわい》がられらア、この家《うち》の身上《しんしょう》は去年から金持になったから、おらも鼻が高い」
 と話の中《うち》におみねは幾許《いくら》か紙に包み、
みね「なんぞ上げたいが、余《あん》まり少しばかりだが小遣《こづかい》にでもして置いておくれよ」
久「これアどうも、毎度《めいど》戴いてばかりいて済まねえよ、いつでも厄介《やっけえ》になりつゞけだが、折角の思し召しだから頂戴いたして置きますべい、おや触《さわ》って見た所じゃアえらく金があるようだから単物《ひとえもの》でも買うべいか、大きに有難うござります」
みね「何《なん》だよそんなにお礼を云われては却《かえ》って迷惑するよ、ちょいとお前に聞きたいのだが、宅《うち》の旦那は、四月頃から笹屋へよくお泊りなすって、お前も一緒に行って遊ぶそうだが、お前は何故私に話をおしでない」
久「おれ知んねえよ」
みね「おとぼけで無いよ、ちゃんと種が上《あが》っているよ」
久「種が上るか下《さが》るか己《お》らア知んねえものを」
みね「アレサ笹屋の女のことサ、ゆうべ宅《うち》の旦那が残らず白状してしまったよ、私はお婆さんになって嫉妬《やきもち》をやく訳ではないが旦那の為を思うから云うので、あの通りな粋《いき》な人だから、悉皆《すっかり》と打明けて、私に話して、ゆうべは笑ってしまったのだが、お前が余《あんま》りしらばっくれて、素通りをするから呼んだのさ、云ったッて宜《い》いじゃアないかえ」
久「旦那どんが云ったけえ、アレマアわれさえ云わなければ知れる気遣《きづけ》えはねえ、われが心配《しんぺい》だというもんだから、お前さまの前へ隠していたんだ、夫婦の情合《じょうあい》だから、云ったらお前《めえ》も余《あんま》り心持も好《よ》くあんめえと思っ
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