れてもお間《ま》に合いまする、お中身もお性《しょう》も慥《たしか》にお堅い品でございまして」
と云いながら、
亭「へい御覧遊ばしませ」
と差出《さしだ》すを、侍は手に取って見ましたが、旧時《まえ》にはよくお侍様が刀を買《め》す時は、刀屋の店先で引抜《ひきぬ》いて見て入らっしゃいましたが、あれは危《あぶな》いことで、若《も》しお侍が気でも違いまして抜身《ぬきみ》を振※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《ふりまわ》されたら、本当に危険《けんのん》ではありませんか。今此のお侍も本当に刀を鑒《み》るお方ですから、先《ま》ず中身《なかご》の反《そ》り工合《ぐあい》から焼曇《おち》の有り無しより、差表《さしおもて》差裏《さしうら》、鋩尖《ぼうしさき》何や彼《か》や吟味致しまするは、流石《さすが》にお旗下《はたもと》の殿様の事ゆえ、通常《なみ/\》の者とは違います。
侍「とんだ良さそうな物、拙者《せっしゃ》の鑑定《かんてい》する処《ところ》では備前物《びぜんもの》のように思われるが何《ど》うじゃな」
亭「へい良いお鑑定《めきゝ》で入《いら》っしゃいまするな、恐入りました、仰《おお》せの通り私共《わたくしども》仲間の者も天正助定《てんしょうすけさだ》であろうとの評判でございますが、惜《お》しい事には何分|無銘《むめい》にて残念でございます」
侍「御亭主やこれはどの位するな」
亭「へい、有難う存じます、お掛値《かけね》は申上げませんが、只今も申します通り銘さえございますれば多分の価値《ねうち》もございますが、無銘の所で金《きん》拾枚でございます」
侍「なに拾両とか、些《ちっ》と高いようだな、七枚半には負《まか》らんかえ」
亭「どう致しまして何分それでは損が参りましてへい、なか/\もちましてへい」
と頻《しき》りに侍と亭主と刀の値段の掛引《かけひき》をいたして居りますと、背後《うしろ》の方《かた》で通り掛《かゝ》りの酔漢《よっぱらい》が、此の侍の中間《ちゅうげん》を捕《とら》えて、
「やい何をしやアがる」
と云いながらひょろ/\と踉《よろ》けてハタと臀餅《しりもち》を搗《つ》き、漸《ようや》く起き上《あが》って額《ひたい》で睨《にら》み、いきなり拳骨《げんこつ》を振《ふる》い丁々《ちょう/\》と打たれて、中間は酒の科《とが》と堪忍《かんにん》して逆らわず、大地に手を突き首
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