あの事を早くも覚《さと》ったろうと不思議に思いながら帰って来て、
白「伴藏、貴様も萩原様には恩になっているから、野辺の送りのお供をしろ」
と跡の始末を取り片付け、萩原の死骸は谷中の新幡随院へ葬ってしまいました。伴藏は如何《いか》にもして自分の悪事を匿《かく》そうため、今の住家《すまい》を立退《たちの》かんとは思いましたけれども、慌《あわ》てた事をしたら人の疑いがかゝろう、あゝもしようか、こうもしようかとやっとの事で一策を案じ出《いだ》し、自分から近所の人に、萩原様の所へ幽霊の来るのを己が慥《たし》かに見たが、幽霊が二人でボン/\をして通り、一人は島田髷《しまだまげ》の新造《しんぞ》で、一人は年増で牡丹の花の付いた灯籠を提《さ》げていた、あれを見る者は三日を待たず死ぬから、己は怖くて彼処《あすこ》にいられないなぞと云触《いいふら》すと、聞く人々は尾に尾を付けて、萩原様の所へは幽霊が百人来るとか、根津の清水では女の泣声がするなど、さま/″\の評判が立ってちり/″\人が他《ほか》へ引起《ひっこ》してしまうから、白翁堂も薄気味悪くや思いけん、此処《こゝ》を引払《ひきはら》って、神田旅籠町《かんだはたごちょう》辺へ引越《ひっこ》しました。伴藏おみねはこれを機《しお》に、何分怖くて居《い》られぬとて、栗橋《くりはし》在は伴藏の生れ故郷の事なれば、中仙道栗橋へ引越しました。
十七
伴藏は悪事の露顕を恐れ、女房おみねと栗橋へ引越《ひっこ》し、幽霊から貰った百両あれば先《ま》ずしめたと、懇意の馬方|久藏《きゅうぞう》を頼み、此の頃は諸式が安いから二十両で立派な家《うち》を買取り、五十両を資本《もとで》に下《おろ》し荒物見世《あらものみせ》を開きまして、関口屋《せきぐちや》伴藏と呼び、初めの程は夫婦とも一生懸命働いて、安く仕込んで安く売りましたから、忽《たちま》ち世間の評判を取り、関口屋の代物《しろもの》は値が安くて品がいゝと、方々《ほう/″\》から押掛けて買いに来るほどゆえ、大いに繁昌を極《きわ》めました。凡夫盛んに神祟りなし、人盛んなる時は天に勝つ、人定まって天人に勝つとは古人の金言|宜《うべ》なるかな、素《もと》より水泡銭《あぶくぜに》の事なれば身につく道理のあるべき訳はなく、翌年の四月頃から伴藏は以前の事も打忘れ少し贅沢《ぜいたく》がしたくなり、絽《ろ》
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