まで出迎え、
「これは孝助殿、さア/\お上《あが》り、今では親子の中何も遠慮はいらない、ズッと上れ」
と座敷へ通し、
相「さて孝助殿、夜中《やちゅう》のお使《つかい》定めて火急の御用だろう、承りましょう、えゝ何《ど》う云う御用か、何《なん》だ泣いているな、男が泣くくらいではよく/\な訳だろうが、どうしたんだ」
孝「夜中上り恐れ入りますが、不思議の御縁、御当家様の御所望に任せ、主人得心の上|私《わたくし》養子のお取極《とりきめ》はいたしましたが、深い仔細がございまして、どうあっても遠国へ参らんければなりませんゆえ、此の縁談は破談と遊ばして、どうか外々《ほか/\》から御養子をなされて下さいませ」
相「はいナア成程よろしい、お前が気に入らなければ仕方が無いねえ、高は少なし、娘は不束《ふつゝか》なり、舅《しゅうと》は此の通りの粗忽家《そゝッかしや》で一つとして取り所がない、だが娘がお前の忠義を見抜いて煩《わずら》うまでに思い込んだもんだから、殿様にも話し、お前の得心の上取極めた事であるのを、お前一人来て破縁をしてくれろと云ってもそれは出来ないな、殿様が来てお取極めになったのを、お前一人で破るには、何か趣意がなければ破れまい、左様じゃござらんか、どう云う訳だか次第を承わりましょう、娘が気に入らないのか、舅が悪いのか、高が不足なのか、何《な》んだ」
孝「決してそういう訳ではございません」
相「それじゃアお前は飯島様を失錯《しくじ》りでもしたか、どうも尋常《たゞ》の顔付ではない、お前は根が忠義の人だから、しくじってハッと思い、腹でも切ろうか、遠方へでも行《い》こうと云うのだろうが、そんな事をしてはいかん、しくじったなら私《わたくし》が一緒に行って詫をしてやろう、もうお前は結納まで取交《とりかわ》せをした事だから、内の者、云い付けて、孝助どのとは云わせず、孝助様と呼ばせるくらいで、云わば内の忰《せがれ》を来年の二月婚礼を致すまで、先の主人へ預けて置くのだ、少し位《ぐらい》の粗相が有ったッてしくじらせる事があるものか、と不理窟をいえばそんなものだが、マア一緒に行こう、行ってやろう」
孝「いえ、そう云う訳ではございません」
相「何だ、それじゃアどう云う訳だ」
孝「申すに申し切れない程な深い訳がございまして」
相「はゝア分った、宜しい、そう有るべき事だろう、どうもお前のような忠義もの故
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