なたさま》、二人の者を不便《ふびん》に思召《おぼしめ》しお札を剥して下さいまし」
伴「剥します、へい剥しますが、百両の金を持って来て下すったか」
米「百目の金子|慥《たしか》に持参致しましたが、海音如来の御守《おまもり》をお取捨《とりすて》になりましたろうか」
伴「へい、あれは脇へ隠しました」
米「左様なれば百目の金子お受取《うけと》り下さいませ」
とズッと差出《さしだ》すを、伴藏はよもや金ではあるまいと、手に取上《とりあ》げて見れば、ズンとした小判の目方、持った事もない百両の金を見るより伴藏は怖い事も忘れてしまい、慄《ふる》えながら庭へ下《お》り立ち、
「御一緒にお出《い》でなせえ」
と二間梯子《にけんばしご》を持出《もちだ》し、萩原の裏窓の蔀《したみ》へ立て懸け、慄える足を踏締《ふみし》めながらよう/\登り、手を差伸ばし、お札を剥そうとしても慄えるものだから思う様《よう》に剥れませんから、力を入れて無理に剥そうと思い、グッと手を引張《ひっぱ》る拍子に、梯子がガクリと揺れるに驚き、足を踏み外《はず》し、逆《さか》とんぼうを打って畑の中へ転《ころ》げ落ち、起上《おきあが》る力もなく、お札を片手に握《つか》んだまゝ声をふるわし、唯《たゞ》南無阿弥陀仏/\と云っていると、幽霊は嬉しそうに両人顔を見合せ、
米「嬢様、今晩は萩原様にお目にかゝって、十分にお怨みを仰しゃいませ、さア入《いら》っしゃい」
と手を引き伴藏の方を見ると、伴藏はお札を掴《つか》んで倒れて居りますものだから、袖《そで》で顔を隠しながら、裏窓からズッと中《うち》へ這入りました。
十三
飯島平左衞門の家《うち》では、お國が、今夜こそ予《か》ねて源次郎と諜《しめ》し合《あわ》せた一大事を立聞《たちぎ》きした邪魔者の孝助が、殿様のお手打《てうち》になるのだから、仕すましたりと思うところへ、飯島が奥から出てまいり、
飯「國、國、誠にとんだ事をした、譬《たとえ》にも七《なゝ》たび捜して人を疑ぐれという通り、紛失《ふんじつ》した百両の金子が出たよ、金の入れ所は時々取違えなければならないものだから、己《おれ》が外《ほか》へ仕舞って置いて忘れていたのだ、皆《みんな》に心配を掛けて誠に気の毒だ、出たから悦んでくれろ」
國「おやまアお目出度《めでと》うございます」
と口には云えど、腹の内では些《
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