お守だから、神棚へ上げて置いてくんな」
伴「へい/\、おみね、旦那の身体を洗って上げな、よく丁寧《ていねい》にいゝか」
みね「旦那様|此方《こちら》の方をお向きなすっちゃアいけませんよ、もっと襟《えり》を下の方へ延ばして、もっとズウッと屈《こゞ》んでいらっしゃい」
と襟を洗う振《ふり》をして伴藏の方を見せないようにしている暇《ひま》に、伴藏は彼《か》の胴巻をこき、ズル/\と出して見れば、黒塗《くろぬり》光沢消《つやけ》しのお厨子《ずし》で、扉を開《ひら》くと中はがたつくから黒い絹で包《くる》んであり、中には丈《たけ》四寸二分、金無垢《きんむく》の海音如来、そっと懐中へ抜取《ぬきと》り、代り物がなければいかぬと思い、予《か》ねて用心に持って来た同じような重さの瓦の不動様を中へ押込《おしこ》み、元の儘《まゝ》にして神棚へ上げ置き、
伴「おみねや長いのう、余《あんま》り長く洗っているとお逆上《のぼせ》なさるから、宜《い》い加減にしなよ」
新「もう上がろう」
と身体を拭《ふ》き、浴衣《ゆかた》を着、あゝ宜《い》い心持《こゝろもち》になった。と着た浴衣は経帷子《きょうかたびら》、使った行水は湯灌《ゆかん》となる事とは、神ならぬ身の萩原新三郎は、誠に心持よく表を閉めさせ、宵《よい》の内から蚊帳《かや》を吊り、其の中で雨宝陀羅尼経《うほうだらにきょう》を頻《しき》りに読んで居ります。此方《こちら》は伴藏夫婦は、持ちつけない品を持ったものだからほく/\喜び、宅《うち》へ帰りて、
みね「お前立派な物だねえ、中々高そうな物だよ」
伴「なに己《お》らたちには何《なん》だか訳が分らねえが、幽霊は此奴《こいつ》があると這入《へい》られねえという程な魔除《まよけ》のお守《まもり》だ」
みね「ほんとうに運が向いて来たのだねえ」
伴「だがのう、此奴《こいつ》があると幽霊が今夜百両の金を持って来ても、己《おれ》の所へ這入《へい》る事が出来めえが、是にゃア困った」
みね「それじゃアお前出掛けて行って、途中でお目に懸ってお出《い》でな」
伴「馬鹿ア云え、そんな事が出来るものか」
みね「どっかへ預けたら宜《よ》かろう」
伴「預けなんぞして、伴藏の持物《もちもの》には不似合だ、何《ど》ういう訳でこんな物を持っていると聞かれた日にゃア盗んだ事が露顕して、此方《こっち》がお仕置《しおき》に成ってしまわア、又
前へ
次へ
全154ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング