お居間の襖をスラリ/\と開けるから、お國はハテナ誰かまだ起きて居るかと思っていると、地袋《じぶくろ》の戸がガタ/\と音がしたかと思うと、錠《じょう》を明ける音がガチ/\と聞えましたから、ハテナと思う内スウーットンと襖をしめ、ピシャリ/\と裾《すそ》を引くような塩梅《あんばい》で台所の方へ出て行《ゆ》きますから、ハテ変な事だと思い、お國は気丈な女でありますから起上り、雪洞《ぼんぼり》を点《つ》け行《い》って見ると、誰もいないから、地袋の方を見ると戸が明け放してあって、お納戸縮緬《なんどちりめん》の胴巻が外の方へ流れ出して居たのに驚いて調べて見ると、殿様のお手文庫の錠前を捻切《ねじき》り、胴巻の中に有った百|目《め》の金子《きんす》が紛失《ふんじつ》いたしたに、さては盗賊《どろぼう》かと思うと後《あと》が怖気立《こわけだ》って憶《おく》するもので、お國も一|時《じ》驚いたが、忽《たちま》ち一計を考え出し、此の胴巻の金子の紛失したるを幸《さいわい》に、之《これ》を証拠として、孝助を盗賊《どろぼう》に落し、殿様にたきつけて、お手打にさせるか暇《ひま》を出すか、どの道かに仕ようと、其の胴巻を袂《たもと》に入れ置き、臥床《ふしど》に帰って寝てしまい、翌日になっても知らぬ顔をしており、孝助には弁当を持たせて殿様のお迎いに出してやり、其の後《あと》へ源助《げんすけ》という若党が箒《ほうき》を提《さ》げてお庭の掃除に出てまいりました。
國「源助どん」
源「へい/\お早うございます、いつも御機嫌よろしゅう、此の節は日中《にっちゅう》は大層いきれて凌《しの》ぎ兼ねます、今年のような酷《きび》しい事はございません、何《ど》うも暑中より酷しいようでございます」
國「源助どん、お茶がはいったから一杯飲みな」
源「へい有難うございます、お屋敷様は高台《たかだい》でございますから、余程風通しもよくて、へい御門は何うも悉《こと/″\》く熱うございまする、へい、これは何うも有難うございまする、私《わたくし》は御酒をいたゞきませんからお茶は誠に結構で、時々お茶を戴きまするのは何よりの楽《たのし》みでございまする」
國「源助どん、お前は八ヶ年|前《ぜん》御当家へ来て中々正直者だが、孝助は三月の五日に当家へ御奉公に来たが、孝助は殿様の御意《ぎょい》に入《い》りを鼻にかけて、此の節は増長して我儘《わがまゝ》に
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