う云う訳で胡麻を摺《す》って、手前《てめえ》があのお嬢様の処《ところ》へ養子に行《ゆ》こうとする、憎《にッこ》い奴、外《ほか》の事とは違う、盗人根性があると云ったから喧嘩するから覚悟しろ」
 と争って居る横合《よこあい》から、龜藏が真鍮巻の木刀を持って、いきなり孝助の持っている提灯を叩き落す、提灯は地に落ちて燃え上る。
龜「手前《てまえ》は新参者の癖に、殿様のお気に入りを鼻に懸け、大手を振って歩きやアがる、一体《いってえ》貴様は気に入らねえ奴だ、この畜生め」
 と云いながら孝助の胸《むな》ぐらを取る。孝助は此奴等《こいつら》は徒党《ととう》したのではないかと、透《すか》して向うを見ると、溝《どぶ》の縁《ふち》に今一人|踞《しゃが》んで居るから、孝助は予《か》ねて殿様が教えて下さるには、敵手《あいて》の大勢の時は慌《あわ》てると怪我をする、寝て働くがいゝと思い、胸ぐらを取られながら、龜藏の油断を見て前袋《まえぶくろ》に手がかゝるが早いか、孝助は自分の体《からだ》を仰向《あおむ》けにして寝ながら、右の足を上げて龜藏の睾丸《きんたま》のあたりを蹴返《けかえ》せば、龜藏は逆筋斗《さかとんぼう》を打って溝《どぶ》の縁へ投げ付けられるを、左の方《ほう》から時藏相助が打ってかゝるを、孝助はヒラリと体《からだ》を引外《ひきはず》し、腰に差《さし》たる真鍮巻の木刀で相助の尻の辺《あたり》をドンと打《ぶ》つ。相助|打《ぶ》たれて気が逆上《のぼ》せ上《あが》るほど痛く、眼も眩《くら》み足もすわらず、ヒョロ/\と遁出《にげだ》し溝《どぶ》へ駆け込む。時藏も打《ぶ》たれて同じく溝へ落ちたのを見て、
孝「やい、何をしやアがるのだ、サア何奴《どいつ》でも此奴《こいつ》でも来い飯島の家来には死んだ者は一|疋《ぴき》も居ねえぞ、お印物《しるしもの》の提灯を燃やしてしまって、殿様に申訳《もうしわけ》がないぞ」
飯「まア/\もう宜《よろ》しい、心配するな」
孝「ヘイ、これは殿様どうしてこゝへ、私《わたくし》がこんなに喧嘩をしたのを御覧遊ばして、又私が失錯《しくじ》るのですかなア」
飯「相川の方《ほう》も用事が済んだから立帰《たちかえ》って来たところ、此の騒ぎ、憎い奴と思い、見ていて手前が負けそうなら己《おれ》が出て加勢をしようと思っていたが、貴様の力で追い散らして先《ま》ず宜《よ》かった、焼落《やけお》
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