《うたぐ》ってやアがるか」
番「まアあんたは、粂之助を贔屓にしておるで、そう思いなはるのじゃ、これ粂之助ちょっと此処《これ》へ来い、汝《おのれ》はまだ年は十九で、虫も殺さぬような顔附をして居るが太い奴《やッ》ちゃ、体《てい》よくお嬢様を誘い出して、不忍弁天の池の縁《ふち》の淋しい処でお嬢様を殺して、金を取って、死骸を池の中へ投《ほう》り込んだに違いあるまい、さ、どうだ、真直《まっすぐ》に云うてしまえ」
斯《こ》う云われるともと人が善《よ》いから、余《あんま》り腹が立って口が利かれない、いきなり立って番頭の胸倉へ武者振りつこうとする途端に、ポンと堕《お》ちたのは九兵衞が置忘れて帰った女夫巾著《みょうとぎんちゃく》、番頭は早くも之《これ》を拾い取って高く差上げ、
番「こ、是じゃ、お内儀《いえ》はん、是はお嬢|様《さん》が不断持って居やはりました巾着でがしょう」
云いながら振ると、中からドサリと落ちた塊《かたまり》は五十両ではなくて八十両。
三
えゝ引続いてお聴きに入れまする、お梅粂之助は互に若い身そらで心得違をいたしたるより、其の身の大難を醸《かも》しました。扨《さて》彼《か》の梅には四徳を具すというが然《そ》うかも知れませぬ、若木を好まんで老木《おいき》の方を好む、又梅の成熟するを貞《てい》たり、とか申して女子《おなご》の節操《みさお》あるを貞女というも同じ意味で、春は花咲き、夏は実を結び、秋は木《こ》の葉が落ちて枯木のようになったかと思うと、又自然に芽が出て来るは、誠に妙なものでございまして、人も天然自然に此の物を見る、あゝ好《よ》い景色だとか、綺麗な色だとか、五色《ごしき》ばかりではなく木《き》の葉の黄ばんだのも面白く、又|染《しみ》だらけになったのも面白い、これは唯其の人の好みによって色々になるのでございます。「心をぞわりなきものと思いぬる見る物からや恋しかるべき」で見る物も恋しく、心と云うものは別に形は無いが、善を見れば善に感じ、悪に出逢えば悪に染まる、されば己《おのれ》の好む所の境界《きょうがい》が悪いと其の身を果《はた》すような事もあるのでございます。
粂之助は奉公中主人の娘お梅に想われたのが、因果の始《はじま》りでござりまして、自分も済まない事と観念を致したから、兄玄道の側へ参り、小さくなって、温順《おとな》しく時節到来を
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