御免なせえ」
 粂「はい……おや/\鳶頭」
 鳶「や、粂どん……まア宜《よ》かった、はあ…お前《めえ》に怪しい事があれば何所《どっ》かへ逃げちまうんだが、ちゃんと此処《こゝ》に居てくれたんでまア宜かった、あゝ有難《ありがて》え」
 粂「あの兄《あに》さん、何だか鳥越の鳶頭がおいでなさいましたよ」
 玄「いやア、鳶頭、まあ何卒《どうぞ》此方《こちら》へ誠に何《ど》うも御無沙汰をして済まぬ、ちょっとお礼かた/″\お訪ね申さんければならぬのじゃが、何分にも寺用《じよう》に取紛れて存じながら大きに御無沙汰を……」
 鳶「そう長ったらしく云ってられちゃア困る、大騒動が出来たんだ、まア御挨拶は後《あと》にしておくんなせえ、おゝ粂どん、お嬢様が昨夜《ゆうべ》家出をした事を知ってるかい」
 粂「いゝえ…………」
 鳶「いゝえって震えたぜ、え、おい、お嬢様が殺されちまったんだよ」
 粂「えっ、お嬢様が……」
 鳶「死骸が弁天の池から今朝上がって、御検視を願うの何《なん》のって大騒ぎをしたんだ」
 粂「へえー……じゃア千駄木の植木屋の九兵衞さんというのは何です、全体まア何ういう理由《わけ》なんです」
 鳶「何ういう理由の何のって、大変な騒ぎなんで、まア和尚|様《さん》お聴《きゝ》になって下せえまし、お嬢様は粂どんに逢いてえ一心から、莫大《ばくでえ》の金子《かね》を持《もっ》て家出をしたから、大方泥坊に躡《つ》けられて途中で遣《や》るの遣らねえのといったもんだから、殺されたに違《ちげ》えねえんで、それを店の番頭野郎がこう吐《ぬか》すんだ、何《な》んでも粂どんがお嬢様を誘い出して、途中で殺して金子を取ったに違えねえ、鳶頭も粂どんと共謀《ぐる》になって、其の金を二十五両ぐらい取ったろう、こう吐すんだ、私《わっし》は腹が立って堪らねえから、余程《よっぽど》殴りつけてやろうとは思ったけれども、お前《めえ》さん何うもね、お内儀様《かみさん》が御愁傷の中だから、そんな乱暴狼藉[#「狼藉」は底本では「狼籍」と誤記]の真似をしちゃア済まねえと思って、耐《こら》えていたが、粂どんが何《なん》にも知らずに斯《こ》うやっているから本当に宜かった、何卒《どうぞ》直《すぐ》に行っておくんなせえ」
 玄「いや、それは重々|御道理《ごもっとも》な訳じゃ、此方《こちら》にも不行跡《ふしだら》がある事《こっ》ちゃから然《
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