きん》だ、よく見て覚《おぼ》えて置け。弥「へえー紫色《むらさきいろ》のいんきんだえ、あれは癢《かゆ》くつていけねえもんだ。長「何《なん》だ其様《そん》な尾籠《びろう》なことを云《い》つちやアなりませんよ、結構《けつこう》な御軸《おぢく》でございますと云《い》ふんだ、出して見せるか掛《か》けて見せるか知らんけれども掛《か》けて有《あ》つたら先《ま》づ辞儀《じぎ》をして、一|応《おう》拝見《はいけん》して、誠にどうもお仕立《したて》と申《まう》し、お落着《おちつき》のある流石《さすが》は松花堂《しようくわだう》はまた別でございます、あゝ結構《けつこう》な御品《おしな》で、斯様《かやう》なお道具《だうぐ》を拝見《はいけん》致《いた》すのは私共《わたくしども》の眼《め》の修業《しゆげふ》に相成《あひな》りますと云《い》つて、身《み》を卑下《ひげ》するんだ。弥「ひげするんなら、角《かど》の髪結床《かみゆひどこ》へ往《い》きやア直《ぢき》だ。長「髯《ひげ》を剃《する》んではない、吾身《わがみ》を卑《いや》しめるんだ、然《さ》うすると先方《むかう》では惚込《ほれこ》んだと思ふから、お引取《ひきとり》値段《ねだん》をと来《く》る、其時《そのとき》買冠《かひかぶ》りをしないやうに、其《そ》の掛物《かけもの》へ瑾《きず》を附《つ》けるんだ。弥「へえ、それは造作《ざふさ》もねえ、破《やぶ》くか。長「破《やぶ》く奴《やつ》が有《あ》るか、知れねえやうに瑾《きず》を附《つ》けるのが道具商《だうぐや》の秘事《ひじ》だよ。弥「フヽヽ「ヒヂ」は道具商《だうぐや》より畳職《たゝみや》の方《はう》がつよいで。長「黙《だま》つて人の云《い》ふことを聞け、醋吸《すすひ》の三|聖《せい》は結構《けつこう》でございます、なれども些《ち》と御祝儀《ごしゆうぎ》の席には向きませんかと存《ぞん》じます、孔子《こうし》に老子《らうし》、釈迦《しやか》は仏《ぶつ》だからお祝《いは》ひの席には掛《か》けられませんと、買つてくれと云《い》はれないやうに瑾《きず》を見出《みいだ》して、惜《をし》い事《こと》には何《ど》うも些《ち》と軸《ぢく》ににゆう[#「にゆう」に傍点]が有《あ》りますと云《い》つてにゆう[#「にゆう」に傍点]なぞを見出《みいだ》さなくツちやアいかねえ。弥「へえー……「にゆう」てえのは坊《ばう》さまかい。長「何故《なぜ》え。弥「づくにゆうでございますツて。長「然《さ》うぢやアねえ、軸《ぢく》に「にゆう」が有《あ》りますと云《い》ふのだ。弥「へえー。長「にゆうを知らんか、道具商《だうぐや》の御飯《おまんま》を喰《く》つてゝ「にゆう」を知らん奴《やつ》もねえもんだ。弥「アハヽヽ何《なん》の事《こつ》た。長「瑾《きず》が出来《でき》たと云《い》つては余《あんま》り素人染《しらうとじみ》るから、瑾《きず》を「にゆう」と云《い》ふが道具商《どうぐや》の通言《あたりまへ》だ。弥「へえ、始《はじ》めて聞いた。長「何《ど》うかすると、お客さまに腰《こし》の物《もの》を出されるかも知れねえ、然《さ》うしたら私《わたくし》は小道具《こだうぐ》の方《はう》とは違ひますゆゑ刀剣《たうけん》の類《るゐ》は流違《りうちが》ひでございますから心得《こゝろえ》ませんが、拝見《はいけん》だけ仰《おほ》せ付《つ》けられて下《くだ》さいましと云《い》つて、先《まづ》頭《かしら》から先《さき》へ眼《め》を附《つ》け、それから縁《ふち》を見て、目貫《めぬき》から何《ど》うも誠にお差《さし》ごろに、定《さだ》めし御中身《おなかみ》は結構《けつこう》な事でございませう、当季《たうき》斯《か》やうな物《もの》は誠に少なくなりましたがと云《い》つて、服紗《ふくさ》を刀柄《つか》へ巻《ま》いて抜《ぬ》くんだよ、先方《むかう》へ刃《は》を向《む》けないやうに、此方《こちら》へ刃《は》を向けて鋩子先《ばうしさき》まで出《で》た処でチヨンと鞘《さや》に収《をさ》め、誠に結構《けつこう》なお品《しな》でございますと、誉《ほ》めながら瑾《きず》を附《つ》けるんだ、惜《を》しい事には揚物《あげもの》でございますつて。弥「へえ天麩羅《てんぷら》かい。長「解《わか》らんのう、長《なが》い刀《み》を揚《あ》げて短くしたのを揚身《あげみ》といふ。弥「矢張《やつぱり》あなごなぞは長いのを二つに切りますよ。長「喰《くら》ひ意地《いぢ》が張《は》つてるな、鑑定《めきゝ》が済《す》むと是《これ》からお茶を立てるんで御広間《おひろま》へ釜《かま》が掛《かゝ》つて居《ゐ》る、お前《めえ》にも二三|度《ど》教へた事も有《あ》つたが、何時《いつ》も飲《の》むやうにして茶碗《ちやわん》なぞは解《わか》りません、何《なん》でございますか誠に結構《けつこう》な
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