買物位ゐはしてるんですが、あの内田さんの方とはそんなこともないんですからね……」とお内儀は厭な顔して云つて、内田のこともひどく見縊つた様子を見せた。
「いや決して御迷惑をかけるやうなことはありませんから。少し急ぎの仕事があつて来たのですが、この通りあと五六日で書きあがるのですから……」と、私は茶湯台の上の原稿を見せて弁解するやうに云つた。
「一体内田さんとはどんなお知合なんですか……お友達でゝも?」と、お内儀は二人の職業や風体の相違から二人の関係を不審に考へてる風でもあつた。
「え、旧い友人なんですよ」と、私は云ふほかなかつた。
「あの人、兄さんや親御さんたちともちつとも似てゐませんね」
「さうですか。僕親御さんたちのことはよく知らないが、兄さんとは似てゐないやうだけど、親御さんたちともさうですか」
「えゝ親御さんたちもあんな顔はしてゐませんよ」お内儀は斯んなやうなことまで云つてお膳をさげて出て行つた。
内田の人相のことなど余計な話ぢやないかと、私は鳥渡した反感を抱かされたが、兎に角内田も余り信用されてなさゝうなのが心細く思はれた。が今の自分の話でお内儀は納得したことゝ思つて机に向つ
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