手をして、その間に細君の湯たんぽやおしめの取代へなどにまめ/\しく動いてゐた。内田は私より一つ年上の三十六で、初めて父親になつたのであつた。
丁度節分の日であつた。三時頃から雪が降り出した。日が暮れてから私たちは小僧が「福は内鬼は外!」と大きな声で叫びながら豆撒きしてるのを聞きながら外へ出た。海岸の宿屋まで十町ばかしの間雪に吹かれながら歩るいた。
その晩は案内されたS閣と云ふ宿屋で、私たちは、芸者やお酌をよんで飲んだり騒いだりした。「お客さんを五六日……」斯う内田は宿のお内儀に云つた。
家構へも大きく、室数もかなりあつて、殺風景な庭ながら大きな池もあつた。座りながら障子のガラス越しに青い海が眺められた。が海水浴専門の場所なので私のほかには客は一人もなかつた。女中もゐなかつた。老夫婦と若夫婦と風呂番の爺さんとご飯炊き――それだけであつた。この村での相当の地主だつたが十年程前に自分所有の田を埋めて普請をして今の商売をやり出したのだと云ふ赭ら顔の、頭の禿げた六十近い主人は、頬髯など厳めしく生やして、中風で不自由な足して、日向の庭へ出ては、悪戯好きな若い犬を叱りつけたりなどしてゐた。若主
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