は大事な人だ。だから、お袋さんと話し、喜平さんと一二杯お酒も飲み合ひ、喜平さんの仙台二高時代の話なぞもきいた、それからなんだ。一通りの話がすんだもんだから、小池さんに一寸《ちよつと》外へ出て貰《もら》つて、駅前の葭簾張《よしずば》りの下のベンチで、よく/\懇談をした筈だ。そこですんだもんだから、僕は朝飯も食つてないんだ、前の洋食屋へはひつて御飯を食べたいから、サイダーでも飲んでおつき合ひくださらんかと云つたところ、矢張りおせいのお母さんの家の方がいゝでせうと云はれたんで、それもさうかと思ひ、ものの話しがすみ、道理のわけが分りさへすれば曇りかゝりのあるお互ひぢやないんだから、そこで僕もいくらか安心が出来たのです。
だが、まだ/\酔払つてゐる時刻ではないのです。それから駅の一寸|顔馴染《かほなじみ》の車屋さんの俥《くるま》に乗つて建長寺の方へ出掛けたんだ。久し振りで八幡さまの横を通り、あの小袋坂を登り、越え、下つた時の気持は僕としては悪い気持ではなかつた。勘当を受けた男がそれとなく内内で勘当を許され、久し振りで我家の門をはひるやうな気持でもあつたんだ。矢張りあの辺の景色はいゝ。いつも変ら
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