然として、四姓始まつて以来、討てば討ち、討たるればまた討ち返す、これが源氏平家の家憲であつた。だから坊主になれなぞとは失敬な! といふやうな意味のことを云つて錨綱を体に巻いて海にはひつたやうなところは、やはり僕は日本人の伝習感情として、何うにもしやうがないものらしい。それと僕の心持などは、較《くら》べてゐるやうなことは無論思ひはしないんだが、真面目《まじめ》に考へたところで、何うしたらばいゝんだらう。すべては、人生は、生活は、かう云ふものだと思ひ諦《あきら》めて、頭のよくなることを考へ、悧巧《りかう》になることの工夫をし、それで気がすめば大変いゝことだとは思ふが、僕には何うにもまだそこまで悟りが出来てゐない。二三の友人は持つてをるつもりだが、僕にはやはり何よりも女房は親密であり、また女房の方でも僕のことを心配してゐてくれてるやうな気もするんだが、それもやはり世の中のうつけた考へなのかも知れない。しかし、さう云つては女房は可哀さうだな。おさん[#「おさん」に傍点]は不憫だとかいふやうな文句を大阪の文楽座できいて何うにも涙が出て仕方がなかつたことがあるが――
ぽつねんと机の前に坐り、あ
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