我《けが》もなくて出て、僕もさうだつたんだが、どこを頼ることもできず、僕の厄介《やくかい》になつてをる招寿軒だからと思つて、老僧をばさんのことをお願ひしたとき招寿軒主人、またおばあさん――おせいのお母さんなぞも、それだけの義理を尽してくれたとは何うにも考へられない。さういふいろ/\の心持で招寿軒のぢゝい、宝珠のばあさん、現住謙栄師――いろ/\な思ひで酒を飲んだのでは面白くない。渡辺さんに対して随分迷惑したと思つてそんなことまで考へると味気ない気がして来る。僕はお金も欲しくはなかつたのだが、そんないろ/\な気分から渡辺さんに汽車賃十円貸してくれと云つて申込んで、たしかに一時自分の財布に入れたと思ふが、そんな法がある可《べ》きぢやないんだから矢張りお返ししたやうに思ふ。それからだ。かなり酔払つて来たんだらうから、帰りにまたそのバラック飲食店に寄りたくなつたのか、寄るといふ馬鹿はないんだ。それ程信用してないものならば、信用しない人間のところへ寄るなんていふことは間違ひのもとであることで褒《ほ》めた話ではない。そこをのんべといふ奴は仕方がないもんでして、酔つたと見えるんですな。僕はどの程度の乱
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