だって同じことさ。ちょい/\これでいろんな事件があるんだよ」
「でも一体に大事件の無い処だろう?」
「がその代り、注意人物が沢山居る。第一君なんか初めとしてね……」
「馬鹿云っちゃ困るよ。僕なんかそりゃ健全なもんさ。唯貧乏してるというだけだよ。尤も君なんかの所謂警察眼なるものから見たら、何でもそう見えるんか知らんがね、これでも君、幾らかでも国家社会の為めに貢献したいと思って、貧乏してやってるんだからね。単に食う食わぬの問題だったら、田舎へ帰って百姓するよ」
彼は斯う額をあげて、調子を強めて云った。
「相変らず大きなことばかし云ってるな。併し貧乏は昔から君の附物じゃなかった?」
「……そうだ」
二人は一時間余りも斯うした取止めのない雑談をしていた。その間に横井は、彼が十年来続けてるという彼独特の静座法の実験をして見せたりした。横井は椅子に腰かけたまゝでその姿勢を執って、眼をつぶると、半分《はんぷん》とも経たないうちに彼の上半身が奇怪な形に動き出し、額にはどろ/\汗が流れ出す。横井はそれを「精神統一」と呼んだ。
「……でな、斯う云っちゃ失敬だがね、僕の観察した所ではだ、君の生活状態また
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