噺は幾度聴かされても彼にはおもしろかった。
「何と云って君はジタバタしたって、所詮君という人はこの魔法使いの婆さん見たいなものに見込まれて了っているんだからね、幾ら逃げ廻ったって、そりゃ駄目なことさ、それよりも穏《おと》なしく婆さんの手下になって働くんだね。それに通力を抜かれて了った悪魔なんて、ほんとに仕様が無いもんだからね。それも君ひとりだったら、そりゃ壁の中でも巌の中でも封じ込まれてもいゝだろうがね、細君や子供達まで巻添えにしたんでは、そりゃ可哀相だよ」
「そんなもんかも知れんがな。併しその婆さんなんていう奴、そりゃ厭な奴だからね」
「厭だって仕方が無いよ。僕等は食わずにゃ居られんからな。それに厭だって云い出す段になったら、そりゃ君の方の婆さんばかしとは限らないよ」
 夕方近くになって、彼は晩の米を買う金を一円、五十銭と貰っては、帰って来る。(本当に、この都会という処には、Kのいうその魔法使いの婆さん見たいな人間ばかしだ!)と、彼は帰りの電車の中でつく/″\と考える。――いや、彼を使ってやろうというような人間がそんなのばかりなのかも知れないが。で彼は、彼等の酷使に堪え兼ねては、逃げ
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