た――。
熱は三十七八度の辺を昇降してゐる。堪へ難いことではない。彼の精神は却《かへ》つて安静を感じてゐる。
「自分もこれでライフの洗礼も済んだ、これからはすこしおとなになるだらう……」
孤独な彼は、気まゝに寝たり起きたりしてゐる。そしていつか、育ちのわるい梧桐の葉も延び切つて、黒い毛虫もみえなくなつてゐる。彼の使つた氷嚢《ひようなう》はカラ/\になって壁にかゝつてゐる。窓際の小机の上には、数疋《すうひき》の金魚がガラスの鉢《はち》にしな/\泳いでゐる。
彼は静かに詩作を続けようとしてゐる。
[#地から2字上げ](大正元年八月)
底本:「現代日本文學大系 49 葛西善藏 嘉村磯多 相馬泰三 川崎長太郎 宮路嘉六 木山捷平 集」筑摩書房
1973(昭和48)年2月5日初版第1刷発行
※底本は旧仮名新字で、カタカナで表記した名詞の拗促音のみ小書きしている。ルビ中の拗促音も、これにならって処理した。
入力:林田清明
校正:松永正敏
2000年9月21日公開
2006年3月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全8ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葛西 善蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング