投げ遣《や》れば。金眸は大《おおい》に怒り、「さては黒衣が虚誕《いつわり》なりしか。さばれ何ほどの事かあらん」ト、いひつつ、鷲郎を払ひのけ、黄金丸に掴《つか》みかかるを、引《ひっ》ぱづして肩を噛《か》めば。金眸も透《とお》さず黄金丸が、太股《ふともも》を噛まんとす。噛ましはせじと横間《よこあい》より、鷲郎は躍《おど》り掛《かかっ》て、金眸が頬《ほお》を噛めば。その隙に黄金丸は跳起きて、金眸が脊《せ》に閃《ひら》りと跨《またが》り、耳を噛んで左右に振る。金眸は痛さに身を悶《もが》きつつ、鷲郎が横腹を引※[#「爪+國」、112−7]《ひきつか》めば、「呀嗟《あなや》」と叫んで身を翻へし、少し退《しさ》つて洞口の方《かた》へ、行くを続いて追《おっ》かくれば。猛然として文角が、立閉《たちふさ》がりつつ角を振りたて、寄らば突かんと身構《みがまえ》たり。「さては加勢の者ありや。這《しゃ》ものものし金眸が、死物狂ひの本事《てなみ》を見せん」ト、いよいよ猛り狂ふほどに。その※[#「口+皐」、第4水準2−4−33]《ほ》ゆる声百雷の、一時に落ち来《きた》るが如く、山谷《さんこく》ために震動して、物凄きこ
前へ
次へ
全89ページ中86ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
巌谷 小波 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング