に戯れゐしが。折から裏の※[#「穴/果」、第3水準1−89−51]宿《とや》の方《かた》に当りて、鶏の叫ぶ声|切《しき》りなるに、哮々《こうこう》と狐の声さへ聞えければ。「さては彼の狐めが、また今日も忍入りしよ。いぬる日あれほど懲《こら》しつるに、はや忘《わすれ》しと覚えたり。憎き奴め用捨はならじ、此度《こたび》こそは打ち取りてん」ト、雪を蹴立《けだ》てて真一文字に、※[#「穴/果」、第3水準1−89−51]宿の方へ走り往《ゆけ》ば、狐はかくと見《みる》よりも、周章狼狽《あわてふためき》逃げ行くを、なほ逃《のが》さじと追駆《おっか》けて、表門を出《いで》んとする時、一声|※[#「口+翁」、66−5]《おう》と哮《たけ》りつつ、横間《よこあい》より飛《とん》で掛るものあり。何者ならんと打見やれば、こはそも怎麼《いか》にわれよりは、二|層《まわり》も大《おおい》なる虎の、眼《まなこ》を怒らし牙《きば》をならし、爪《つめ》を反《そ》らしたるその状態《ありさま》、恐しなんどいはん方《かた》なし。尋常《よのつね》の犬なりせば、その場に腰をも抜《ぬか》すべきに。月丸は原来心|猛《たけ》き犬なれば、
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