。心の美しいひとは必ず美人だ。女の美容術の第一課は、心のたんれんだ。僕はそう思うよ。」
「でも、私、よごれているのよ。」
「判らんなあ。だから。言ってるじゃないか。からだは問題でないんだ。心だよ、心だよ。」
そう言いながら、私はわくわく興奮しだした。雪の傍にある原稿をひったくって、ぴりぴりと引き裂いた。
「あら!」
「いや、いいんだ。僕は君に自信をつけてやりたいのだ。これは傑作だ。知られざる傑作だ。けれども、ひとりの人間に自信をつけて救ってやるためには、どんな傑作でもよろこんで火中にわが身を投ずる。それが、ほんとうの傑作だ。僕は君ひとりのためにこの小説を書いたのだ。しかしこれが君を救わずにかえって苦しめたとすれば、僕は、これを破るほかはない。これを破ることで、君に自信をつけてやりたい。君を救ってやりたい。」
私は、尚《なお》も、原稿を裂きつづけた。
「判ったわよ。判ったわよ。」雪は声をたてて泣きだした。泣きながら叫んだ。「私、泊るわ。ねえ、泊らしてよ。もっともっと。話を聞かしてよ。私、泊るわ。かまうものか。かまうものか。」
九
そのように善良な雪を、なぜ私が殺
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