敗ではなかったのか。いや、失敗どころか、かえってこの少女たちに、なにか勇敢な男としての印象を与えたのかも知れない。そう自惚《うぬぼ》れて私は、ほっと溜息ついて、傍の椅子に腰をおろした。
「きょうは、私、サアヴィスしないことよ。」
 日本髪の少女は、そう言っていやらしく笑いこけた。
「いいわよ。」断髪の少女が長い袖《そで》で日本髪の少女をぶつ真似をした。「私がするわよ。ねえ、私、だめ?」
「ふたり一緒がいい。」
 私は、酒も飲まぬうちに酔っぱらっていた。
「あら! 欲ばりねえ。」
 断髪が私をにらんだ。
「いや、慈悲ぶかいんだ。」
「うまいわねえ。」
 日本髪が感心した。
 私は面目をほどこして、それからウイスキイを命じた。
 私は、私に酒飲みの素質があることを知った。一杯のんで、すでに酔った。二杯のんで、さらに酔った。三杯のんで、心から愉快になった。ちっとも気持がわるいことはないのである。断髪の少女が、今夜は私の傍につききりであった。いよいよ、気持がわるい筈はないのである。私の不幸な生涯を通じて、このときほど仕合せなことはいちどもなかった。けれども私は、その少女と、あまり口数多く語らな
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