かっていた幕を外しますと……どうでしょう……丈夫な鉄の格子が五本も外れて、中には夫婦の姿は見えません。
 見世物小屋の主人は肝を潰しました。
「こりゃあどうじゃ。いつの間に逃げたんだろう。その上にこの丈夫な檻の格子を破るなんて何と恐ろしい力だろう」
 と呆気《あっけ》に取られておりました。
 けれども見物は承知しません。
「ヤアヤア。その珍らしい夫婦はどうしたんだどうしたんだ」
 とわめきますので、見世物小屋の主人は頭を抱えて、
「昨夜、檻を破って逃げられたんです。たしかにこの中に入れといたんですが」
 と云いましたけれども、見物はやっぱり承知しません。
「その檻を破るような人間があるものか。貴様は嘘をついているのだろう」
 と、みんなワアワア騒ぎ出しました。これを見ると主人は慌てて、
「嘘じゃありません嘘じゃありません。御勘弁御勘弁」
 と云いながら、頭を抱えて逃げ出しました。
「アレッ。畜生。嘘をついてお金を取って逃げようとするか。泥棒だ泥棒だ。殴っちまえ殴っちまえ」
 と云ううちに大勢の見物人が上って来て、見世物小屋の主人をメチャメチャに殴り付て、踏んだり蹴ったりしますと、めいめ
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