何という失敬な奴だ」
 と、真赤になって掴みかかろうとしました。
 ヒョロ子は慌ててそれを押し止めまして、
「お待ちなさい。この動物園の御主人は何も御存じないからそんなことをおっしゃるのです。折角鹿や猪を売ってやろうとおっしゃるような親切な方に、そんなことを云うものではありません」
 と云ってから、今度は青くなっている動物園の主人に向って、
「どうも私の主人は気が短いので、すぐ憤《おこ》り出して済みません。けれども見世物になることだけはおことわり致します。ほんとのことを申しますと、私達は人から見られるのがイヤで、婚礼の晩に逃げ出して来たくらいです。きょうでも只鹿や猪の生きたのが欲しいばっかりに、あなたのところへ行きましたのです。ですから、済みませんが鹿と猪を売って下さいませんか」
 とていねいに頼みました。
 動物園の主人はガッカリした顔をしてきいておりましたが、やがてうなずきまして、
「それじゃよろしゅう御座います。売って上げましょう。今夜遅く、一時過ぎに入らっしゃい。生きた猪と鹿を箱ごと上げます。そうして車に積んで、無茶先生のところまで持たして上げますから」
 と云いました。
 夫
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