す。まわりには篝火《かがりび》がドンドン燃やしてありますので、そこいらは真昼のように明かるく見えました。
そのうちに、町から来た楽隊が賑《にぎ》やかな音楽を初めて、時間が来たことを知らせましたので、みんな神様の前に集まって、礼服を着た神主と一所に、珍らしい夫婦の豚吉とヒョロ子が来るのを今か今かと待ちました。
けれども、いくら待っても夫婦の姿は見えませんでした。
そのうちに、二人を迎えに行った美しい花馬車が二台帰って来ますと、それには二人の姿は見えず、二人の両親が泣きながら乗っておりましたが、みんなの前に来ますと、
「皆さん、申しわけありません。二人は逃げてしまいました」
と云いました。
「サア、大変だ」
と村中の人は騒ぎ出して、儀式も御馳走も打ち棄てて、大勢の人々が夜通しがかりで探しましたが、二人の姿はどこにも見えませんでした。
豚吉とヒョロ子は、こうして大勢の人々が騒いでいる時、村からずっと遠い山道を手を引き合ってのぼっておりました。
「ふたりで夫婦になったら、今迄よりもっともっと恥かしくなるよ」
「ほんとですわねえ。とても村には居られませんよ。けれどもみんな心配している
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