イ。かしこまりました」
 お爺さんは大勢いで二人を水から引き上げて、無茶先生の云いつけ通り家《うち》の中に担ぎ込んで、二人を寝かしました。
「コレコレ。それでは貴様は今から町へ行って、さっき頼んだ買物をして来い。それから腹が減ったから、喰い物とお酒を買って来い」
「ヘイヘイ。そして、その召し上りものはどんなものがよろしゅう御座りましょうか」
「それは葱《ねぎ》を百本、玉葱を百個、大根を百本、薩摩芋《さつまいも》を百斤、それから豚と牛とを十匹、七面鳥と鶏《にわとり》を十羽ずつ買って来い」
「えっ。それをあなたが一人で召し上るのですか」
「馬鹿野郎、そんなに一人で喰えるものか。葱は白いヒゲだけ、玉葱は皮だけ、大根は首だけ、薩摩芋は頭と尻だけ、豚は尻尾だけ、牛は舌だけ、七面鳥は足だけ、鶏は鳥冠《とさか》だけ喰うのだ。それからお酒は一斗買って来い。ホラ、お金を遣る」
「ヘイヘイ」
「それからも一度云っておくが、どんなことがあっても貴様が見たことをシャベルなよ。魔法使いだといって兵隊や巡査でも来るとうるさいから。そればかりでない。貴様のテンカンもまた昔の通りになるのだぞ」
「ヘイヘイ、決して申しませぬ。それでは行って参ります」
 と、鍛冶屋のお爺さんは車力《しゃりき》を引いて町へ出かけました。
 ところが、この鍛冶屋のお爺さんはまた困ったお爺さんで、何でも自分の見たことやきいたことを人に話したくて話したくてたまらない性質《たち》でした。
「これは困ったことになった。うっかりしゃべったら、おれの病気がもとの通りになるばかりでなく、あの山男を捕えに兵隊や巡査なんぞが来たら、おれの家《うち》はブチ壊されてしまうかも知れない。けれどもまた、あんな不思議な珍らしいことを見ておりながら、人に話すことが出来ないとは何という情ないことになったものだろう。ああ、困った困った」
 と、独言《ひとりごと》を云い云い行くうちに、やっとのことで町に来ました。
 さて、町に来て見ますと、その賑やかなこと、立派なこと。ビックリすることばかりです。けれどもお爺さんは驚きません。
「もうテンカンは治っているから大丈夫だ。それに、この町中の人が見たことのない不思議なものをおれは見ているんだぞ。おれは大変なことを知っているんだぞ。それを話したら、みんな驚いてテンカンを引くだろう。けれどもおれは話さないのだ。ドレ、
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