ドキドキし初めました。そうして、これは何でも不思議なことが初まるに違いないと思いまして、ソッと引返して裏の方へまわって、そこにあった梯子を伝って屋根裏から天井へ這入って、家の中の様子をのぞきました。
 鍛冶屋の爺さんが天井の節穴から覗いているとは知らずに、無茶先生は久し振り人間の住む家に這入ってキョロキョロしている豚吉とヒョロ子のうしろから鍛冶屋の鉄槌で頭を一つ宛《ずつ》なぐり付けますと、豚吉とヒョロ子はグーとも云わずに土の上にたおれてしまいました。
 鍛冶屋の爺さんは驚きました。
「ヤア。これは大変だ。あの山男は人殺しだ」
 と思わず声を立てるところでしたが、やっと我慢をしました。
「それにしてもあの殺された人間は何という不思議な姿であろう。男の方は横の丸さが当り前の人間の倍もあるのに、背丈けは半分しかない。又、女の方はヒョロヒョロ長くて、まるで竹棹《たけざお》のようだ。何という不思議なことであろう。あの山男はあの二人を殺して喰うのか知らん」
 と、一生懸命息を詰めて見ておりました。
 無茶先生はそれから鍛冶屋にありたけの鉄を集めて真赤に焼いて、たたき固めて、一つの大きなヤットコと鉄の箱を作りました。
 それから鍛冶屋にありたけの炭を集めて、ドンドン炉の中にブチ込んで、一生懸命|※[#「韋+鞴のつくり」、第3水準1−93−84]《ふいご》で火を吹き起しますと、その火の光りで家中が真赤になりました。
「オヤオヤ。家が焼けなければいいが」
 と心配しいしい見ておりますと、無茶先生は鉄の箱をその上にかけて、水を一パイ汲んで、豚吉とヒョロ子をその中に投げ入れて、あとから真っ黒な薬を一掴み入れて煮初めました。
「サテ、煮て喰うのかな」
 と思いながらお爺さんが見ておりますと、豚吉とヒョロ子は中の湯が煮立つにつれて真黒になって、まるで鉄のようになってしまいました。
 それを大きなヤットコで挟み出して、鉄の箱の中の水を汲み出して外へ棄てて、鉄の箱も外へ出しますと、又も炭をドシドシ炉の中に入れて前よりも一層|非道《ひど》く燃やしましたが、やがてその炭の火が眼も眩《くら》む程まっ赤におこると、無茶先生はさっきこしらえた大きなヤットコを取り出し、先ず豚吉を挟んで火の中へ、
「ドッコイショ」
 と突込みました。
「ヤア大変だ。この山男は人間を焼いて喰う化け物だ。人間の丸焼きだ丸焼だ」

前へ 次へ
全59ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三鳥山人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング