さ》がらぬ位でしたが、やっと落ち付いて無茶先生に向って、
「これ、黒ん坊の魔法使い。お前は何の怨《うら》みがあって、おれのうちの番頭をあんなに黒ん坊にしてしまった」
と叱りました。
無茶先生はその時ニヤニヤ笑いながら、宿屋の主人の顔を見て云いました。
「貴様のうちに泊めてくれないからだ」
「何、泊めてくれないからだ」
「そうだ。だから泊めてくれるまでここを動かないつもりだ」
と、又白い煙を沢山に吹き出しました。主人はこれをきくと大層腹を立てました。
「馬鹿なことを云うな。おれのうちは貴様みたような生蕃人や、そんな片輪者なぞを泊めるようなうちじゃない。出てゆけ出てゆけ。泊めることはならぬ」
「アハハハハハ」
と無茶先生は笑いました。
「今に見ていろ。きっと、どうぞお泊り下さいと泣いて頼むようになるから」
「何糞《なにくそ》。いくら貴様が魔法使いでも、おれはちっとも怖かないぞ。出てゆかねばこうだぞ」
と懐中からピストルを取り出して、無茶先生につき付けました。
「フフン。おれを殺したらあとで後悔するだけだ」
と無茶先生は落ち付いたもので、又も黒い鼻からと口からと白い煙をドッサリ吹き出しました。
そうするうちに見物人はみんなワイワイ騒ぎ出しました。
「ヤアヤア。宿屋の御主人の顔が蒼白くなった。赤くなった。もう紫になった。オヤオヤ真黒になってしまった。奥さんもお嬢さんも、坊ちゃんも小僧さんもみんな黒くなった。大変だ大変だ」
と騒ぎ立てましたが、そのうちに今度は自分たちの顔までも真黒になっていることに気が付きますと、サア大変です。
「ヤア。おれたちまでも魔法にかかった。大変だ大変だ。魔法使いを殺してしまえ」
と寄ってたかって、無茶先生へ掴みかかって来ました。
その時無茶先生は立ち上って、大勢を睨み付けながら怒り付けました。
「馬鹿野郎共。何が魔法だ。おれが色の黒くなる煙草を吸っているのを、貴様たちがボンヤリ立って見ているからだ。貴様たちの方がわるいのだ。それともおれを殺すなら殺せ。貴様たちは一生真黒いまま死んでしまうのだぞ。おれは白くなるお薬を知っているんだ。サア、殺すなら殺せ」
これを聞くと、みんな一時に静まりました。そうしてその中から一人のお爺さんが出て来て、
「私たちがわるう御座いました。どうぞそのお薬を教えて下さいませ」
とあやまりますと、ほかの
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