で止めています。
 見世物小舎の主人は飛び上って喜びました。その大勢の人を押しわけて中に這入りますと、いきなり高い処に上って演説を初めました。
「サアサア皆さん、静かにして下さい。今から皆様にあの看板の通りの世界一の珍らしい夫婦を御目にかけます。あの夫婦は昨日《きのう》この見世物小舎に見物に参りましたのですが、御覧の通り珍らしい姿ですから、私が百万円出して夫婦を買い取りまして皆様にお眼にかけることにしました。ですから、あれを御覧になりたいとおっしゃる方は、一人前一円|宛《ずつ》お出しにならねばお眼にかけません。サアサア皆さん。又と見られぬ世界一の珍らしい夫婦です。おかみさんの高さが一丈八尺もあって、旦那様の高さがたった三尺という百万円の珍夫婦……一円位は安いものです。入らっしゃい入らっしゃい」
 これをきくと、何しろ大評判な上に又と見られないというので、われもわれもと一円出して、見る見るうちに中は一パイになってしまいました。
 そうすると見世物小屋の主人は今度は中に這入って来て、見物の前に立ちまして、
「サアサア皆さん。よく御覧なさい。これが世界一の珍夫婦です」
 と云ううちに、前にかかっていた幕を外しますと……どうでしょう……丈夫な鉄の格子が五本も外れて、中には夫婦の姿は見えません。
 見世物小屋の主人は肝を潰しました。
「こりゃあどうじゃ。いつの間に逃げたんだろう。その上にこの丈夫な檻の格子を破るなんて何と恐ろしい力だろう」
 と呆気《あっけ》に取られておりました。
 けれども見物は承知しません。
「ヤアヤア。その珍らしい夫婦はどうしたんだどうしたんだ」
 とわめきますので、見世物小屋の主人は頭を抱えて、
「昨夜、檻を破って逃げられたんです。たしかにこの中に入れといたんですが」
 と云いましたけれども、見物はやっぱり承知しません。
「その檻を破るような人間があるものか。貴様は嘘をついているのだろう」
 と、みんなワアワア騒ぎ出しました。これを見ると主人は慌てて、
「嘘じゃありません嘘じゃありません。御勘弁御勘弁」
 と云いながら、頭を抱えて逃げ出しました。
「アレッ。畜生。嘘をついてお金を取って逃げようとするか。泥棒だ泥棒だ。殴っちまえ殴っちまえ」
 と云ううちに大勢の見物人が上って来て、見世物小屋の主人をメチャメチャに殴り付て、踏んだり蹴ったりしますと、めいめ
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