す。まわりには篝火《かがりび》がドンドン燃やしてありますので、そこいらは真昼のように明かるく見えました。
 そのうちに、町から来た楽隊が賑《にぎ》やかな音楽を初めて、時間が来たことを知らせましたので、みんな神様の前に集まって、礼服を着た神主と一所に、珍らしい夫婦の豚吉とヒョロ子が来るのを今か今かと待ちました。
 けれども、いくら待っても夫婦の姿は見えませんでした。
 そのうちに、二人を迎えに行った美しい花馬車が二台帰って来ますと、それには二人の姿は見えず、二人の両親が泣きながら乗っておりましたが、みんなの前に来ますと、
「皆さん、申しわけありません。二人は逃げてしまいました」
 と云いました。
「サア、大変だ」
 と村中の人は騒ぎ出して、儀式も御馳走も打ち棄てて、大勢の人々が夜通しがかりで探しましたが、二人の姿はどこにも見えませんでした。
 豚吉とヒョロ子は、こうして大勢の人々が騒いでいる時、村からずっと遠い山道を手を引き合ってのぼっておりました。
「ふたりで夫婦になったら、今迄よりもっともっと恥かしくなるよ」
「ほんとですわねえ。とても村には居られませんよ。けれどもみんな心配しているでしょうね」
「しかたがない。こうして出かけなければ、一生涯に外に出る時は無いからね」
「ほんとに情のう御座います。どうかして私たちの身体《からだ》を当り前の人のようにする工夫は無いのでしょうか。私はいつもそのことを思うと悲しくて……」
 とヒョロ子は泣き出しました。
「泣くな泣くな」
 豚吉は慰さめました。
「それはおれでも同じことだ。今に都に行ったらば、よいお医者にかかって治してもらってやるから、泣くな泣くな」
 こう云ってあるいているうちに、二人は山を越えて広い街道に出ますと、夜が明けました。
 豚吉は今まで威張っておりましたが、ここまで来ると、身体《からだ》が肥っておりますのでヘトヘトに疲れてしまいました。
「おれあもうあるけない」
 と豚吉は泣きそうな声で云いました。
「まあ、あなたは何て弱い方でしょう。私がおぶってあげましょうか。あたしはこんなに瘠せてても、力はトテモ強いんですよ」
「馬鹿なことを云うもんじゃない。おれは人の三倍も四倍も重たいんだぞ。そんなことをして、大切なお前が二つに折れでもしたら大変じゃないか」
「いいえ、大丈夫ですよ。私は人の五倍も六倍も力があるのです
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