あとが、月の光りに照されているのが見つかりました。その足あとは草原《くさはら》のふちまで来ますと、草を踏みわけたあとにかわって、ずっと湖のふちまで続いております。
 村の人々はやがて、湖のふちに残っている花の鎖の端を見つけました。その一方の端はずっと湖の底深く沈んでいるようです。
「あら、これはあたしたちがミミちゃんに摘んであげた花よ。ミミちゃんが花の鎖につかまってお兄さんに会いにゆくって云ったから、あたしたちは大勢で加勢して上げたのよ」
 と二三人の女の子が云いました。
 村の人々は皆な泣きました。泣きながら花の鎖を引きはじめました。
 お月様がだんだん西に傾いてゆきました。それと一所に湖の水がすこしずつ澄んで来るように見えました。けれども、花の鎖は引いても引いても尽きないほど長《なご》う御座いました。
 ようようにお月様が沈んで、まぶしいお太陽様《てんとさま》が東の方からキラキラとお上りになりました。その時にはもう湖の水はもとの通り水晶のように澄み切っておりました。そうしてやがて……。
 シッカリと抱き合ったまま眠っているルルとミミの姿が、その奇麗な水の底から浮き上って来ました。
 ――可哀そうなルルとミミ……。



底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は、「戸田健・作画」を意味する、「とだけんさくぐわ」です。
入力:柴田卓治
校正:江村秀之
2000年5月17日公開
2006年5月4日修正
青空文庫作成ファイル:
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