」を舞ったが、この時の「景清」は聊《いささ》か可笑《おか》しかったという噂が残っているが、どうであったろうか。
「烏頭《うとう》」(シテ桐山氏)の仕舞のお稽古の時に、翁は自身に桐山氏のバラバラの扇を奪って「紅葉の橋」の型をやって見せているのを舞台の外から覗いていたが、その遠くをジイッと見ている翁の眼の光りの美しく澄んでいたこと。平生の翁には一度も見た事のない処女のような眼の光りであった。
◇
扇でも張扇でも殆んど力を入れないで持っていたらしく、よく取落した。
その癖弟子がそんな事をすると非道く叱った。弟子連中は悉《ことごと》く不満であったらしい。
夏なぞは弟子に型を演って見せる時素足のままであったが、それでも弟子連中よりもズットスラスラと動いた。足拍子でも徹底した音がした。
平生は悪い方の左足を内蟇《うちがま》にしてヨタヨタと歩いていたが、舞台に立つとチャンと外蟇になって運んだ。
型の方は上述の通り誠に印象が薄いが、これに反して謡の方はハッキリと記憶に残っている。謡本を前にして眼を閉じると、翁のその曲の謡声《うたいごえ》が耳に聞こえるように思う。ところ
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