けていて、お話を聞きながらうとうとと居睡《いねむ》りをしているではないか。姫は何だかサッパリ訳がわからなくなった。最前からのいろいろの不思議の出来事は、矢張り本当の事ではなく、皆この書物を読みながらそのお話しの通りに自分が為《し》たように思っただけで、本当は矢張り最前《さっき》からここに立ったままで、白髪小僧は自分の気付かぬ間《ま》にここに来て眠っているのだとしか思われなかった。姫は益々呆れてしまって、思わず手に持っていた書物をパタリと地上《じべた》に取り落すと、間もなく颯《さっ》と吹いて来た秋風に、綴《と》じ目《め》がバラバラと千切れて、そのまま何千何万とも知れぬ銀杏の葉になって、そこら中一杯に散り拡がった。見るとその葉の一枚|毎《ごと》に一字|宛《ずつ》、はっきりと文字が現われている様子である。
 重ね重ねの不思議に姫は全く狐に憑《つま》まれた形で、ぼんやりと突立って見ていると、その内に又もや風が一しきり渦巻《うずま》き起《た》って、字の書いてある銀杏の葉をクルクルと巻き立てて山のように積み重ねてしまった。
 するとそこへどこからか眼の玉と髪毛《かみのけ》と鬚《ひげ》が真青な、黄色
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