黒狐の皮の外套を重ね、頭に碼瑙《メノウ》の冠を戴いて、手に黄薔薇の籠を持ちました。そうして足に鹿の鞣皮《なめしがわ》の細い靴を穿《は》いて、いよいよ支度が出来上りまして、これから食堂で皆とお別れの食事を喰べて、それからお伴の女中と一所に馬車に乗って、宮中に行くばかりとなりました。
 するとこの時不意に化粧部屋の扉を開いて中に駈け込んで、驚く間もなく濃紅姫を抱き締めて――
「お前はどこにも遣《や》らない。どこにも遣らない。死ぬまでこうやって抱いている」
 と叫んだ人がありました。それは濃紅姫のお母様でした。
 お母様は今朝《けさ》二人の小供が、世にも恐ろしい不思議な死に方をしたのを眼の前に見て、狂気のようになってしまったのでした。そうしてたった一人あとに残った濃紅姫を、どこにも遣るまいと思って、こうして抱き締めたので御座います。けれども濃紅姫はそんな事は知りませんから吃驚《びっくり》しまして――
「アレ。お母様、どう遊ばしたので御座います」
 と叫ぼうとしましたが、この時遅く彼《か》の時早く、直ぐにあとから今度はお父様が駈け込んでお出でになりました。そうしてものをも云わずお母様から濃紅姫
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