の音が、夜の更けると一所に静まって行くばかりでした。ところが真夜中が過ぎて、やがて夜が明けようかと思わるる頃になりますと、庭のどこからか歌を唄う女の美しい声が聞こえて来ました。
「紅矢は顔を見た。
悪魔の顔を見た。
悪魔の顔を見たものは
殺されるのが当り前。
妾《あたし》は悪魔。妾は悪魔。
屹度紅矢を殺すぞよ」
その声は、青眼先生がどこかで一度聞いた事のある声のように思いましたが、この時はどうしても思い出せませんでした。この声を聞き付けますと、紅矢は忽ち眼を見開き、頭を擡《もた》げて――
「あの声。あの声。悪魔のこえ。妹の美紅の声」
と叫びました。
青眼先生は直ぐに窓から飛び出して、声のする方に駈け出しました。そうして片手を罎《びん》の栓へかけて、出会い頭《がしら》に毒薬をふりかけてくれようと、血眼《ちまなこ》で駈けまわりましたが、不思議や悪魔はどこへ行ったか影も形も無く、只|霜風《しもかぜ》が身を切るように冷たくて、大空には星の光りが降るように輝いているばかりでした。
青眼先生は何だか狐に抓《つま》まれたような気がして、呆然《ぼんやり》と立っていました。けれどもそ
前へ
次へ
全222ページ中156ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング