ました。これは一つの湖で、大層大きい様子ですから、紅矢ははじめて馬を控えて通りがかりのお婆さんに――
「お婆さん。あの湖は何という湖ですか」
 と尋ねました。そのお婆さんは頭巾と覆面で顔をすっかり隠して、片手に短い杖を突き片手に重たい果物の籠を提げて、さも疲れたらしくよぼよぼと歩いていましたが、今紅矢からこう尋ねられると、立ち停まりながらやっとこさと腰を延ばしまして――
「はい。あれは多留美という湖で御座います」
 と教えました。紅矢は思いの外に遠くに来ているのに驚きまして――
「何。あれが多留美という湖かい。これは驚いた。では南の国の都も最早《もはや》遠くないんだ。それではそろそろ引き返そうか」
 と馬の首を引き廻しましたが、又|不図《ふと》このお婆さんが如何にも疲れているのに気が付きまして――
「お婆さんはどこへ行くのですか」
 と尋ねました。そのお婆さんは覆面の下から、しきりに紅矢の様子を見ている様子でしたが、この時さも弱り切ったように溜息《ためいき》をしまして、自分はあの多留美の湖の片傍《かたほと》りに住んでいる者だが、近い内に王様がお后を御迎え遊ばすという事を聞いたから、その
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