近に到って急にふえたまでのことである。
この式の宿屋に出入りするものは、良家の子女、純職業婦人はもとより、駈け落ちもの、出来合いものの数をつくして自由自在である。
東京人の堕落時代は、こうしてあらゆる方面に色彩を深めて行く。
[#改ページ]
下層社会
安飲食店の女
東京の上流社会の紊乱《びんらん》は既に書いた。中流社会の堕落と認められている職業婦人の堕落も、以上述べる通りである。
そんなら下層社会はどうか。
下層社会の堕落の対象は、大体に於て所謂低級な醜業婦、即ち単純な意味の職業婦人である。どちらかと云えば何等の仮面をも冠《かぶ》らぬ。――初めから醜業婦として客を招く女である。
この方面に関する記者の報道は極めて簡単で済む。東京市中到る処魔窟ならざるなしという一語で済む。
天麩羅、おでん、すし、一ぜんめし、酒肴、一品洋食、支那料理、簡易食堂、平民バーといったようなのが東京市中到る処にある。その中の十中八九は怪しいと云ってよい。ほんの申訳《もうしわけ》に食器や空瓶を並べたのが、どうかした横町に行くとザラにある。そこには必ずその白い頬と唇の赤い女が
前へ
次へ
全263ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング