ここでは御座いませんので」
「どこだね……」
「エエ、いつでも御案内致します。エヘ、そのお気に召したのを御指名下されますれば、エヘ」
男の眼は早くも用心深そうに輝き始めた。
記者は失敗《しま》ったと思った。
「いつでもいいって!」
「左様《さよう》で、ここにありますのならどれでも、エヘ……」
「これはどうだね」
「ヘエ。これは三十五円で……」
「半夜かい、終夜かい」
「半夜で、室とお料理だけが別で御座います。終夜だと今二十円お願い致しますので……エヘ」
「高価《たか》いな。じゃ、これは……」
「みな同じで御座います……」
男の眼はいよいよ警戒的に光って来た。
記者は社用の名刺以外に、或る特殊な名刺を持っていたので、よっぽどそれを出して見ようかと思ったが、さりとはと思い切ってここを出た。
その後、或る友人にこの話をしたら、
「それあ新発見だ。恐らく最高級の奴だろう。早速行って見よう」
と云った。記者が高価《たか》い事を説明して押し止めると、彼は高らかに笑った。
「アハ……。馬鹿な……。それあ出たらめだよ。君は体《てい》よく追っ払われたんだ」
然るにその友達もその後《ご》そこ
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