ーに這入ったら、表の割りに内部は奇麗である。
狭い壁を全部、印度更紗《インドさらさ》模様の壁紙で貼り詰めて、床にはキルクが敷いてある。大理石の机が階下に二つ、二階には只一つある。その只一つの机の真ん中に、香り床しいクリサンセマムドワーフの鉢が、これも只一つ置いてあった。それから正面の壁に美人の写真の額が、これもたった一つかけてある。そこへ十四五の小娘が白いエプロンをつけてチョコチョコと出て来たから、紅茶とお菓子を命ずると、ハイと云って降りてゆきかけた。
「店にはお前一人かね」
ときくと、黙ってうなずいて降りて行った。記者は煙草を吸いながら考えた。
……表は見すぼらしい――内部は見事なカフェー――小娘が唯一人――お客はあまりないらしい。それでいて場所は日本一である。これでどうして商売になるのかしら……。
こんな事を考えているうちに、小娘がお茶とお菓子を持って階段をソロリソロリと上って来たから、受け取って飲んで見るとなかなか上等のものである。菓子も※[#「凩」の「木」に代えて「百」、第3水準1−14−57]月か木村屋かと思われる。記者は小娘に聞いてみた。
「この店ではお料理もするの
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