ません。福岡ならば福岡風があるのが本当なのです。日本中が東京風になるのは、日本の方がまだ本当の趣味を御理解なさらぬためだと考えられます」云々。

     千束町式、蠣殻《かきがら》町式

 東京の職業婦人の服装を、あんなに馬鹿馬鹿しく派手にした第三の原因は極めて深刻である。
 御存知の方もあろうが、昔、東京に千束町風又は千束町式、千束町スタイルなぞいう熟語があった。千束町というのは浅草観音の裏手にある醜業窟で……なぞ云ったら笑われるかも知れぬが、順序だから仕方がない……醜業婦の理想的なのがウジャウジャ居て日本中の男の油を絞った。その税金は浅草区有数の財源となっていた。
 そこの女達はあらゆる派手な姿をしていた。頭の天辺《てっぺん》から足の爪先まで、極端な派手ずくめの低級趣味で男を引き付けた。その女達特有の毒悪な安香水は千束町香水と呼ばれた。
 今の東京の職業婦人のスタイルは、この千束町式の変化したものに外ならぬ。その派手やかさとダラシなさ加減は、低級趣味の男の欲情をそそるのに最も適当している。
 今一つこれも知ったか振りであるが、約二十年近く前から東京に蠣殻《かきがら》町式という言葉
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