これという特徴は一つも無いが、一度見たら永久に忘れられぬ程印象が深い。相手の心に何物かを遺さねば措かぬといったような気味合いがある。これは同窓の生徒同志でも不思議がっている事である。
彼女は平凡な顔でありながら、表情が極めて上手である。送別会とか何とかいう会合に出ると、あまり嫌みを見せずに盛に切ってまわす。一高生徒の会合なぞに臆面もなく乗り込んで、カルメンと持てはやされるというが、彼女以外にそんな大胆な手腕を揮い得る少女は滅多にあるまいと考えられる。
彼女は全校の生徒七百の中《うち》二三十人の友達を持っているが、その友達との交際振りがまた一種特別である。どんな事かわからぬが、彼女の命令に従う少女を彼女は手を尽して可愛がる。これに反して、彼女の命令に従わぬ少女は、自分の持ち物を持たせたり何かして、云うに云われぬ虐待をする。だから彼女の友達は彼女の思い通りにかわって行く。
彼女の学校の帰り途を知っているものは一人も無い。昨日《きのう》は西、今日は東と、まるで方向違いの道をどこへか消えて行く。全くどこへ行くのかわからぬ。
彼女は丸い、黒い、径二寸位の化粧箱を持っている。中には頬紅と白
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