いがね。とにかく気をつけて見たまえ。Mの字を帽子につけてる奴が馬鹿に多いから。おれあ、どうも腑に落ちないと思っているんだがね……」
記者はこの最後の言葉にあまり注意を払わなかった。只、Mの字がよく売れることだけは間違いないと思っただけであった。
すると今度はその翌日の事……。
英語の先生の話
冷い雨の降る日――四谷から牛込へ帰る途中――飯田橋から新宿行の急行電車に乗り換えると――あの中学生――一週間余り前に、上野公園の杉の木蔭で、友達にアルファベットの秘密を教えた生徒が、偶然に記者の前に立っているのを発見した。
記者はニコニコして問うて見た。
「どこまで帰るのですか、君は」
彼はハニカミ笑いをしながら答えなかった。
「あなたの英語の先生は何といいますか」
これは頗《すこぶ》るまずい問い方であったが、ついそんな調子になってしまった。彼は矢張り答えなかったが、その代り意外の処から返事が来た。
「私ですが、何か御用ですか」
記者は驚いてふり返った。すぐうしろに一人の学校教師らしい四十恰好の人が立っている。あまり立派でない背広に中折れで、ゴムのコートを着て、ゴムの長
前へ
次へ
全263ページ中239ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
杉山 萠円 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング