良少年の中の或るものは、活動の案内女を情婦に持っている。その情婦が入口を預かっている時にスルリと這入って、場内の無切符をめっける。もちろん無切符は表方の方でも見張っているから、それ以上に眼を利かせなければいけないが、素振《そぶり》や何かでそれと察すると、ハネるのを待って物蔭へ連れ込んで脅迫する。
「僕はアノ館《コヤ》の見張りだが、君は無切符で見ていたろう。君は知るまいが、浅草の活動小屋でそんな事をすると命がけだよ。見つかり次第、楽屋へ連れて行かれてノメされるのだよ(ノメスとは半殺しにする事で、この習慣は今でも盛に行われる。平生ヘイヘイやっている館の男の鬱憤晴らしなので、館側では勿論、警察も知らぬ顔をしている)。君は初めてだから、僕が話をつけて連れ出したんだが、無代ではほかの奴が承知しまい。僕も話をつけると云った以上、いくらか飲ませなくちゃならないのだが、一体いくら持ってるね」
なぞと捲き上げてしまう。手強いのは懐手をした相棒が居て横からジロジロ睨んでいるから、無切符位の奴なら大抵落城する。しかも、無切符だけならいいが、立派に金を払って見ている人間の中で気の弱そうなのを見つけると、この
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