皆耳とスレスレに飛んだ。
――五発――。
武術家某氏は手を挙げて制止した。望み通りの金を与えた。
これは今日迄秘密にされているという。
彼はその金を持って有力な乾児と共に東京を出た。各所の有名な富豪を訪れて金を強要したが、
「今日金が無ければ、明日《あす》何時に貰いに来る。警察に訴えるのは自由である」
といった調子であった。その中の一つで釜山《ふざん》に起った事件は、その当時、本紙にも載ったから思い出す人もあるであろう。
彼は満州から支那方面に去ったらしく、その後の消息は聴かぬ。
文化式不良学
今の東京にはこんな非文化式は流行《はや》らぬ。その代り文化式が全盛で、極印付きが三千何百も居るのだからウンザリする。今から二十何年前の非文化旺盛時代が坐《そぞ》ろになつかしまれる位である。
こんな文化式不良の札付きになると、東京市内外の不良の系統がわかって来る。同時に不良学上の智識と興味がズンズン付いて来る。
第一に東京市中の案内が、親の家の中よりもよくわかって来る。それも町筋や電車系統位の事でない。眼ぼしい店ならば、その営業振りや店員の顔ぶれ、お客の筋。工合のよ
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