[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]あなたの  つや子より
 なつかしい
  私の邦彦兄さまへ
   ……………………
 この少女は明らかに江戸ッ子で才気がある。しかも色事に対する趣味を理解している。都会人の冴えた才智と不良性とが如何に密接な関係があるかは、この手紙の文句だけでも証拠立てられる。

     少女のラブレター(七)

   ……………………
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ただ今なつかしいお便り有がとう存じました。
白秋のわすれな草を手にして……おりましたら、恋しいあなたからのお便り、……私の手は戦《おのの》きました。嬉しさに……二十七日には日比谷までお出下さったのですってね。
おゆるし下さいませ……すべては私が……ほんとうにすみませんでした。
こちらへお出下さるそうですわね……わざわざすみませんわ。水戸でもよろしいのですけど、人目が多いからよしましょう。
途中と申しましてもよく存じませんけど、利根川べりは?
あまり奇麗な町でも御座いませんけど、利根川が。土浦で下車しますの。上野から土浦までの切符をお求め下さいませ。そして土浦で下車して……わたくしも一番で参りますから
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