ではない。秘密という言葉そのものが、若い心に対して云い知れぬ魅惑を持っているからである。
大人は自分勝手な秘密をいくらでも持ちながら、子供に対してこれを隠す。しかも子供が大人に対して秘密を持つことは許さぬ傾きがある。これに対する若い心の反逆の意味もあろう。一種の好奇心もあろう。自分達も秘密を持ちたいという欲望もあろう。秘密を持つと何だかえらくなったような気がするというような関係もあろう。
今の若い異性間の交際、殊にその取りかわす手紙にはそんな気分が濃厚にあらわれている。
A何号よりとか、BBBよりとかいうのはもう古い。暗号、隠語、切手の貼り方、封筒の色、封筒の使い方、又は花言葉なぞが盛に研究されている。そんな事を書いた新聞や雑誌を切り抜いて持っているものもある。男が女文字の女名前、女が男文字の男名前なぞいうのは古手で、この頃は邦文タイプライターを利用するのもある。
奇妙な店頭の封筒
東京市中到る処の縁日や露天には、封筒や書簡箋の店が多い。三角や五角、六角、八角、又は蹄形、不整形なぞと、形はいうまでもなく、色や模様までいろいろある。これによって秘密通信の暗号はいくら
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